このたびの中国のデモの分析と総括です。
イギリスの経済誌ファイナンシャルタイムズの記事が簡潔なので、手抜きですがそのまま転載させてもらいます。
中国中間層のバラード 反日デモを見て彼らは 2012年9月21日(金)11:00
(フィナンシャル・タイムズ 2012年9月18日初出 翻訳gooニュース) ジャミル・アンダリーニ
先週から中国各地で燃え上がった反日感情と怒りのまっただなかにあって、過去に似たようなことがあった時には聞こえなかった通奏低音が静かに、しかしはっきりと聞こえている。中国中間層のバラードとでも呼ぼうか。
中国では何十年も前から、中国共産党が容認する抗議行動は外国に対するものだけだった。共産党は、国営メディアによる扇動的な報道を通じて定期的に対外国デモをけしかけて、後方支援さえしていた。
たとえば1999年にアメリカがセルビア・ベオグラードの中国大使館を爆撃した時がそうだったし、日本との間で無人島群をめぐる領土紛争が緊迫した2005年も同様だ。そして今また両国は、同じ無人の諸島をめぐってもめている。
そのほかにも中国で愛国的な情熱が爆発するたびに、外から観察する人間の目には同じ光景がはっきりと映る。対外デモに参加する人の多くは実のところ、何か別の不満を発散させているのだ。特に、自分たちの国の支配者に対する不満を。
デモ参加者たちは「倭寇小日本」の血を求めて叫んでいるが、その実、彼らは暗黙のうちに、自分たちの尊厳をもっと認めてほしいと自分たちの国に求めているのだ。自分たちにも経済成長の恩恵をもっと与えろ、この国の運営に自分たちの声をもっと反映させろと。
こうした要求があるのだと明確にされたことはほとんどない。少なくとも中国国内で公然と話し合われたことはほとんどない。けれども今回については、中国の超活発なミニブログの世界で予想外の反応がひとつの潮流を作りだしている。
自国民が毛沢東の肖像画を手に行進し、日本と何かしらの関係があるからといってレストランやショッピングセンターを襲撃し、自動車をひっくり返している光景を目のあたりにして、高い教育を受けている中国の中間層の間である種の反動が起きている。
(中国国内ではブロックされている)Twitter上では、今回の反日デモで道になだれこみ、旗を振り回し、卑猥で過激なプラカードを高らかと掲げる人たちのことを、「義和団」と比較する動きさえ出てきている。義和団とは1898年から1901年にかけて中国各地で大混乱をもたらした、迷信と人種差別を行動原理にした反乱集団のことだ。
これはかなり雄弁な対比だ。反日デモに対する中国国内の態度が(少なくとも部分的には)社会階級によって異なるというのも、これで分かる。
義和団は「義和拳」とも呼ばれ、そのほとんどは農民や労働者だった。自然災害や中国農村部のひどい状況を、欧米列強やキリスト教宣教師、そしてキリスト教に改宗した中国人のせいだと主張していた。また自分たちは宙を飛べるし、超能力があるので自分たちには銃弾は効かないとも主張していた。
先週から北京や成都に集まった群衆のほとんどは若者で、ざっと見渡した限りでは、中国の新しい中間層を構成する上昇志向の若者たちはここにはあまりいないなという印象だった。
成功して階級をどんどん上がっていく新中間層は購買力があり、日本車やニコン・カメラを持ち、欧米での留学経験も数年あるかもしれない若者たちだ。そういう若者たちは抗議に参加せず、愛国心の名のもとに市民がものを燃やしたり略奪したりするなんていうのは中国にとってとんだ面汚しだと、自宅からさかんにツイートしていた。
この中間層は暴力を非難すると共に、政府のいいように操られることを嫌悪している。政府は自分たち市民の権利伸張のための抗議行動は認めないのに、自分たちの日常生活とは何の関係もない領土紛争のために日本大使館にペットボトルを投げつけるのは奨励する。そんな政府の言いなりになるなどあり得ないと、中間層の彼らは思っているのだ。
彼ら中間層の多くは、今回の反日デモの背後にはさらにタチの悪い不穏な力が働いていると見ている。権力の世代交代を進める共産党トップで戦われている舞台裏の権力闘争と、今回の官製デモは関係があると、彼らは見ているのだ。
党トップの交代まで1カ月を切った今、中国共産党の最高意思決定機関で国を実質的に動かす中央政治局常務委員会の委員9人はまだ決まっていない。
それを念頭におく中国の人たちは、愛国精神を刺激して反日デモを支援するのは、強硬派が委員選任のためのアピールとしてやっていることだと考えている。あるいは、委員選任を狙う穏健派が強硬派としての評価を得るためにやっているのかもしれないと。
米コロンビア大学の博士号をもつ北京大学のZhang Jian教授は、中国の新しい中間層の空気を代弁する発信者のひとりだ。
「共産党の介入があっても、デモに参加したのは50都市だけで、ひとつの都市では数千人しか集まらなかった」とZhang教授はミニブログに書いた。「社会の底辺にいるあの連中は私服警官にかり出されたのだろうし、手当り次第にたたき壊して略奪してまわる連中の様子は、社会の主流派や中間層に軽蔑されただけだ。そしてそのせいで主流派や中間層の中には、政府の正当性にますます疑問をもつようになった人たちもいるのだ」。
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(翻訳・加藤祐子)
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/world/china/592613/
「100元(約1200円)をもらってデモに集まった人もいる」。福建省のデモに参加したという男性が打ち明けた。中国シンクタンク研究者は「全国のデモを支援する出資者がいるのは間違いない」と述べ、大規模デモが組織的に行われている可能性を指摘する